コンセプト

コラム

住宅の新築クライアントの敷地に共鳴する住宅

京都で仕事をさせてもらっていると古都と呼ばれるこの街が未だ現役の、伝統と先進が共存し一体となって機能する素晴らしい街であることに気付かされます。

私はこの場所で日本の様々な歴史と伝統を身を以て知り、「現代のあるべき建築」を考える上で不可欠な、見せかけの和風や「和◯◯」のようなものとは全く異なる、日本人の原点と決して切り離すことのできない精神を実感してきました。

天川の家
[ 天川の家 ]
百済寺の家
[ 百済寺の家 ]

今の私たちの暮らしは決して昨日今日形作られたものではありません。その在り方は時代と共に変化し、新しい人間関係や家族の形を生み出し続けています。あるいは再び昔の姿へ回帰する時が来るのかもしれませんが、そのような変化の潮流を見ていると流行だけでデザインやシステムが形作られてしまうのは果たして正しいことなのかという疑問は拭えません。

住宅の新築についても、私は新しい住まいや新しい建築の可能性を誰かが仕掛けた流行に乗って作ってしまうことは絶対にしたくないと考えています。

クライアントや敷地、環境などあらゆる条件が依頼ごとに全く異なるわけですから、既製品のような画一されたスタイルを全てのプロジェクトに当てはめることは適切ではありません。クライアントの要件と個々の敷地に秘められた可能性を引き出せば、自ずと住みよく個性的な建築が最適な解答として導き出されるはずなのです。例えば低平で密集地でもある京都市内の「鰻の寝床」とも呼ばれる敷地の特徴は、中庭や坪庭を最大限に活用するものです。山沿いで開放感のある土地では、その斜面を埋め立てるのではなく活かす設計をすることで建造物と土地が一体となった魅力ある建築となります。

景色の良い高台、水辺、超過密地域、森の中などそれぞれの建物に求められるものが自ずとその建築の姿を形作っていくのです。

オフィスの新築企業のコンセプトを形に

職場や作業場といった空間は広い意味での"効率"を高めることを優先して計画されるのが一般的です。しかし、居住空間とは大きく性質が異なるとはいえども1日の多くを過ごす場所なのですから、単に効率化を図るだけでなく人や社会との結びつきを意識した豊かな空間であっても良いのではないかと考えています。

クリーンライフビル
[ クリーンライフビル ]
実業印刷 本社ビル
[ 実業印刷 本社ビル ]

職業や組織、時代や人によってそれぞれ適する、あるいは適さない仕事空間があるので、あくまで仕事場であることを念頭に置いてデザインしなければ価値ある建築とは成り得ません。しかし、ビルという言葉が持つ金属やコンクリートでできた無機質で冷たい空間のイメージを払拭し、日光の射す明るくて暖かいオフィスや木のぬくもりで彩られた事務所が当たり前の姿として認知されるよう、空間の在り方を提案していくのもまた建築家の重要な役割なのです。

古民家の改修歴史と伝統を活かすために

最近は空前のリフォームブームです。TV番組の影響だと指摘する声もありますが、その根本は別のところにあると考えています。

話は少し変わって、私の自宅にはとあるドイツメーカーの食洗機があります。25年以上に渡り使用し続けて、決して故障しなかったなどということはありませんが、メーカーはこれまでに一度も買い換えを勧めてきたことはありませんでした。当然有償ではありますが、故障すれば技術者を呼び修理してもらいます。ちょっとした修理を重ね、いつの間にか25年も使っていたのです。

西洞院の家
[ 西洞院の家 ]

カタログ上の性能が良いから、綺麗だから、デザインが良いからなど理由は様々ですが、現代の私たちの生活では壊れたら新しいものに買い換えてしまおうという姿勢があるように感じます。その考えは恐らく住宅にもあって、古くなったらさっさと更地にして新築を建ててしまうという選択をする人も経験上少なくありません。

古民家に限らず、改修という手段を選んだ場合、元の建築物から取り去ってしまう部分と残す部分とを分別するところから始まります。後年に手を加えられた比較的新しい部分とオリジナルの部分が混在しているわけですが、最も古いという理由でオリジナルを取り去ることはありません。もちろん改修や補強によって復元できない程度に傷んでしまったものもありますが、木を切り出すところから始まる建築のサイクルを考慮し、日本の風土と伝統の技術に従って建てられたオリジナルの建築物は残していく価値があると考えられるからです。

建築物が取り壊されるのは「古くなったから」ではありません。今そこに住む、あるいは使う人々の生活様式に合わなくなってしまったからというのが最も大きい理由です。言い換えれば、住まい手、使い手の現状に合った新しいプランを提示することができれば、オリジナルの建築を最大限に活かした改修として成功するわけです。

京都の町家は通り土間空間が最も特徴的な空間で、ひんやりとした湿気を含む土間が煙や熱い空気を排出し、京都の暑い夏を過ごしやすくしています。しかし、エアコンやヒーターなど空調機がある生活に慣れ親しんだ私たちにとって「夏を涼しく快適にする土間空間」は反対に冬の耐えがたい寒さの原因となり、また土間と居室との大きな段差は高齢者の負担となり、残念ながら現代の生活様式では快適とは言い難い空間と捉えられるようになってしまいました。

そうした現代の住まい手が抱える問題を解決するには、採光や断熱を行い段差や急勾配を除去していく必要があるわけですが、安易にそれだけを目指して建物をいじると長い歴史の中で京都風土に適用するよう作られてきた日本的な伝統のあるシステムを失ってしまいかねません。第一に住まい手の快適な暮らしを実現しつつも、町屋本来が持つ古き良き伝統を保存するための最適な方法を見つけ出すことが、建築文化に寄り添うわれわれ建築家の古民家改修における責務だと考えています。

西洞院にある町屋の改修ではこの手法や考えを念頭に置いて、昔から使われてきた手すりや障子をそのまま使い、かつての風情を残しつつも現代の生活様式に即した快適な町屋として生まれ変わりました。

住宅の増改築

最近では60代を越えて引退した後の第二の人生ともいうべき「老後」を意義あるものにするべく、住居の新築や改築にプラスアルファの空間を加える建築の依頼が増えてきました。今までにもアトリエや茶室を併設する依頼があったのですが、カフェやギャラリー、プライベートのチャペルなど人生の延長戦を楽しめる住宅や施設の設計をさせて頂くようにもなりました。

香芝の家
[ 香芝の家 ]
プライベートチャペルのある家
[ プライベートチャペルのある家 ]

マンションの改修次の時代への可能性

今から20〜30年前に各地で建てられた膨大な数の分譲マンションが一時代を終え、新しい世代の家族の住居としてリニューアルに迫られています。当時建てられたものはキッチン・浴室・洗面台の水周り設備やドアや窓といった内装材を同じ製品にし、安く大量に仕入れることでコスト削減が図られました。また間取りも定型化することで地域差の少ない住居空間が大量に生産されました。

そこに長く住み続け、家族の在り方も変わった住まい手達が住環境の姿に新たな個性を求めるのは当然の展開で、そのような需要に応えるのもまた我々の役目です。マンションの中の一室という限られた空間の中で新たな可能性を見出し、規格に沿って複製された居住空間を住まい手の要望に応えた新たな空間に再生することは私にとっても挑戦しがいのあるフィールドです。

ある依頼では中古で購入したマンションの内装を丸ごと真っさらな状態にし、他の部屋とは全く異なるコンセプトの一室に作り変えました。外観からは分かりませんが、扉を開ければ他の入居者も羨む全く個性的な空間が広がります。

商業施設人が足を運びたくなる空間

商業施設にとって、店舗のデザインは決して切り離して考えることの出来ない重要な要素の1つです。

以前に依頼を頂いたとあるフレンチレストランでは店舗拡大に伴う内装全体の改修を行いました。施主であるオーナーシェフの腕前は抜群で既にレストランとしての評判は高かったのですが、単に席数を増やし内装を綺麗にするだけに留まっては建築家として価値ある建築を提供したことにはなりません。

ピノノワール
[ ピノノワール ]

こうした依頼で目指すべきデザインは、来店客にとって居心地の良い店舗を作ることです。ディナーを楽しむテーブルでの時間、店頭で商品をじっくりと選ぶ時間、その1つ1つが来店客にとって価値あるものとなり「また来よう」と思える空間を作ることができれば、来店客は友人や恋人、家族を連れて再び訪れるようになります。そしてまたそれぞれが他の知人を呼ぶことで、連鎖的に拡散し潜在顧客の裾野は大きく広がっていくのです。

そのフレンチレストランでは結果的に、私自身ちょっと恐ろしくなるくらいに来店者数が増えてオーナーが「忙し過ぎる」と嬉しい悲鳴を上げる程となりました。

安田念珠店
[ 安田念珠店 ]
カフェオニヴァ
[ カフェオニヴァ ]