概要
奈良県大和高田市の小さな工務店による、「事業再構築補助金」を活用し、地方都市の再生を目指した新しいスタイルのシェアスペースである。かつて主力産業であった靴下工場の建物を買い取り、多様な人々が利用できる新たな地域空間となる施設を目指した。
計画は、事業再構築補助金の獲得から始まった。打ち合わせを通じてプランと外観のイメージを作り込み、申請に臨んだ結果、独創的なプランが認められ、補助金を得ることができた。そして、ほぼ同じプランで計画を進め、施設が完成した。
大和高田市は、奈良県北部に位置し、古墳時代の奈良史跡が多く残る歴史ある地域である。人口密度が県内で最も高く、祭りやイベントが数多く開催されている。しかし、近年の中国製品輸入増大により、地場産業である繊維業が危機に瀕している。そこで、人口密度の高いこの地域に新しい刺激を与えるスペースが必要だと考えられた。
この建物は、1階に巨大な暖炉を中心にした広場と作業場兼倉庫を配置し、2階には煙突を囲む4棟のコテージタイプのシェアスペースと、ガラス屋根のデッキを挟んで連絡する大きな棟を構成している。広場は、人々の交流を促し、新しい街のシーンを創出することを目指している。また、南に隣接する建物は元の靴下工場の社屋で、民泊施設やキャンピングカーの停泊スペースと共に、県外や海外を含む広いエリアでの利用が見込まれている。
建物は鉄筋、RC、木造の混構造で作られており、1階は重量鉄骨フレームにRCスラブを打ち込んでいる。中央には大きなフライヤーピットが設けられ、煙突の上部はドイツ製を輸入した。この広い空間は、焚火を囲んだ会議や様々なイベントを行うことができ、人々が交流する場として大いに機能している。また奥の作業場も含め、大工などプロの職人が作業する場としても活用されている。
螺旋階段を上ると、中央に突き出した煙突を中心に4つのコテージ状の建物と一段上ったところに東西に大小の長い二つのスペースが見える。二階のスペースはすべて木造で作られ、特に屋根を支える構造は小経木を組み合わせたトラス構造で軽快で親しみやすい空間となっている。煙突を中心に配置された広場を作るプライベートデッキを持った四つの建物は、中央に向かって大きく開口が開けられ、互いが見える形で空間を共有している。煙突を中心に新しい交流の場が生まれつつある。
絵画などのアトリエ、小会議、女子会、研修、大きいスペースでは大人数の研修、ダンス、バレエ教室などが想定されているが、広場によって生まれる新しいシェアスペースの可能性に、既に思いもよらぬ団体のオファーが出てきている。それは小さな街角のような空間が広がり、新鮮さと共に少し懐かしさも感じる場となっている。