概要
「実業印刷本社ビル」 ~社会と企業のつながりをデザインする~
自社ビルというと、過去様々な形やシステムが試みられているが、全体としてはその多くが費用と効率のみに傾倒したものであり、社会との関係性は、ただ会社の看板のみなどいうビルも珍しくない。
企業の社屋の役割として、会社の内部を社会から、隠すとまでは言わないけれど、遮蔽し守る、あるいは権威的な形のデザインで会社の力を誇示するなど、社会と企業の関係が対立的で、今日まで実は、ビル自体に社会とのつながりをシステムとしてデザインし表現している建築は意外に少ないのではないかと考えるようになった。
法的な緩和を狙い、公開空地を公園などにして、社会に提供しているビルも近年多くなっているが、どこまでいっても巨大かつ権威的であることには変わりなく、人がちっぽけに見えてしまう。
日本のローカルエリアの、この実業印刷の本社屋の計画では、企業イメージをその会社と社会との関係性の表現によってつくり得ないかと考えた。
そこで、内部を可能な限り社会に開き、かつ、そこに働く人からも常に周りの景色や人の動き、時間の流れが感じられる建築を目指した。
そのため、角地に計画したこの建物の内部はできるだけオープンにし、各セクションごとに壁で仕切る代わりにセクションごとフロアの高さを変え、エリアをゆるやかに区切っている。
その構造はスチールの65角無垢の柱を2本抱かせたモノストラクト工法で、従来の鉄骨造に比べ、木造のような軽やかさをもった空間となっている。
そして、ハネ出したガラスの回廊が、建物の周りをとりまくように上へ延び1階の展示エリアから各フロアを順に昇りながらアクセスでき、最上階のセミナールームまでたどり着く。
他へ移動する立体動線であるとと共に、外部の景色や光を取り込む装置として機能している。外からは働く人が移動するのが見え、内部の様子が適度に伺い知れるデザインとなっている。
また、打ち合わせやセミナー等に訪れた人は、各セクション通過するごとに少し距離をおいて社員と触れ合うことによって社員とのコミュニケーションも、緩やかながら作り出すのである。
回廊の天井は緩やかに映りこむミラーシートを貼ってあるが、内外の互いの風景を映し合い社会との視覚的つながりを作り出している。
この内外共、開かれたイメージが実業印刷の企業イメージとなり、よりよい人材の確保とますますの事業の発展を心より願う次第である。