概要
500棟を超える伝統的建造物が建ち並ぶ今井町は、その数で他の追従を許さない日本一を誇る「重要伝統的建造物群保存地区」である。施主はこの地区内に土地を手に入れ、以前設計させてもらった別の地域の店から移り、新築でこの地区に挑むことになった。
外部のデザインは厳しい国の基準で制限された中でつくり出さねばならなかったが、スケールの大きなダイナミックな外観となった。外壁は総漆喰で仕上げ、屋根瓦の頂部の鬼瓦は、愛知の鬼師で現代の名工の梶川亮治氏によるワインにちなんだ葡萄と招き猫のデザインとなっている。ワイン色の暖簾と共に伝統の街並にフレンチレストランのイメージを伝えている。
内部はひと続きの大きな空間が、束と梁で組み合わされた特殊な構造で支えられている。そのダイナミックな空間にワインセラーと中庭に面したカウンターが客を迎えてくれるが、中庭を挟んで奥に個室があり、個室へは一旦外部の路地を通っていくようになっている。客はこの奈良の今井町の地にことなる文化の融合を楽しむのである。
居住部は、施主夫婦のエリア、娘さんの家族のエリア、そして施主の父上の四世代三世帯を坪庭に分けられて3つのユニットで構成し、店との関係性を考えながら配置している。店に一番近い1F両側に施主夫婦、その二階に娘の家族、北の一番奥に父親のユニットを配している。
この計画は、若いスタッフのプランを採用して進めることにした。この細長い敷地では難しいと思われたプランに果敢に挑んでいたからである。伝統の街並みに寄り添いながらも何か瑞々しい建築が出来たと思っている。
また今回も「今井町づくりセンター」の担当の方々に大変お世話になった。コロナ禍で計画が遅れる中、粘り強くいろいろアドバイスをいただき何とか完成にこぎつけることが出来、感謝している。町の景観に少しでも寄与出来たとすれば幸いである。