概要
兼業農家の農家住宅
この住宅は、奈良県北部の田園地帯に南北に50mを超える細長い敷地で、北側が道路東側が水田、という元々ビニールハウスで野菜を作っていた畑の跡に計画した。
施主は会社員をしながら週末や休日に米作りをしている兼業農家でそれまでは近くのアパートで妻と2人の娘と暮らしていた。道を挟んで斜め向かいに、実家があり、高齢の母親が一人で住んでいる。その建物も含め、周囲は古い小さな集落で、その中心に鎌倉時代の中期に建てられた重要文化財である百済寺の塔がそびえている。
敷地の東側と北側は水田に隣接し、遠く離れた集落までずっと広がっており、夏は水田を渡る風が特に涼しく心地よい。
この設計ポイントは、極端に細長い敷地に対して、農家住宅であることから南側のバックヤードに表の道から必ず軽トラックがアクセスできることが条件であり、幅の狭い敷地と道路の関係が重要なポイントとなった。
また雨水を集めて屋根に戻し、夏は屋根を冷却するシステムも施主の希望であったため、屋根の形について、それらを考慮し、それを合わせ、水田に囲まれた古い集落に、どのように景観的に配慮するかも課題となった。
そこで、東側の水田に面するところに軽トラックのアクセス通路を建物の玄関を貫く形で取り、室内の廊下を南北に取って、更にそれに沿って収納を取り、リビングダイニング、中庭、子供室、水周り、寝室をそれら南北に貫く2つの異なった通路にはさむように配置した。
東側の軽トラ用通路は、玄関の大型引戸を引き込むと車が通れるようになっており、玄関を抜けるとポリカーボネイト越しに光の入る半戸外空間となって中庭に続き、家族がバーベキューをしたり、子供たちがローラースケートをしたりして遊んでいる。
建物は平屋として両サイドにそり上がった湾曲する屋根とし、雨水は中央の中庭上に開けられたタンクからポンプで屋根に戻す仕掛けとなっている。東側の水田越しに、この敷地の向こうに垂直にそびえ建つ百済寺の塔とのコントラストをデザインに生かせないかと考え、低く水平なラインの建物の上に、古式建築のように両端がそり上がった屋根を完全に浮かして乗せ、古代の建築とこの住宅のデザイン的な融合を試みた。